【書評】国際社会の「偽善」と戦ったアメリカ人。満洲建国の真実を説く『満洲国建国の正当性を弁護する』

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「満洲国は日本の侵略によって作られた傀儡国家である」——現在でも広く信じられているこの歴史的ナラティブに対し、建国当時、真っ向から異を唱え、その正当性を世界に訴え続けた一人のアメリカ人がいました。

今回ご紹介する『満洲国建国の正当性を弁護する』(G.ブロンソン・リー著 / 草思社)は、1935年に出版された原著『The Case for Manchoukuo』の全訳です。

著者のジョージ・ブロンソン・リーは、上海を拠点にアジアの経済・政治を報じる英文雑誌『ファー・イースタン・レビュー』を主宰していた大物ジャーナリストです。彼はのちに、自らの信念に基づき満洲国政府の外交顧問(アメリカ代表)を引き受け、ワシントンやジュネーブで「満洲国の承認」を求めて孤軍奮闘することになります。

当時のアメリカ政府(スティムソン国務長官)が「武力による現状変更」として強硬な不承認姿勢(スティムソン・ドクトリン)を貫き、国際社会が満洲国の「独立国家としての承認」を法的に拒む中、なぜ一人のアメリカ人が祖国の方針に逆らってまでその正当性を訴え続けたのか。本書は、道徳的熱狂に狂う欧米の「偽善」と「ダブルスタンダード」を完膚なきまでに論破した、第一級の地政学・国際法論争の記録です。

書誌情報 詳細
タイトル 満洲国建国の正当性を弁護する(原題:The Case for Manchoukuo)
著者 G.ブロンソン・リー (George Bronson Rea)
出版社 草思社
主なテーマ 満洲事変、満洲国承認問題、欧米のダブルスタンダード、防共地政学

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本書が暴く3つの「国際社会の欺瞞」

1. 「侵略」ではなく「自衛と民族自決」であるというファクト

アメリカ政府や国際社会の一部は、満洲建国を「日本が平和な中国から領土を強奪した」と非難しました。しかしリーは、この前提自体が完全に間違っていると指摘します。

当時の満洲を支配していたのは、民衆を暴力で搾取する張作霖・張学良らの軍閥でした。彼らは自らの軍事力を維持するため、数十年先までの税金を武力で前倒し徴収するという暴挙を働き、無価値な不換紙幣(奉天票)を乱発。さらにはアヘンの専売を巨大な資金源(実質的な経済の担保)として民衆を支配するなど、およそ近代国家とは呼べない凄惨な搾取を行っていました。

リーは、満洲に住む3000万人の民衆が、こうした苛烈な軍閥の搾取と無政府状態から逃れ、自分たちの生命と財産を守るために「独立(分離)」を選択したのは、アメリカの独立戦争と同じ正当な「民族自決(Self-Determination)」の行使であると主張しました。日本はその独立を支援し、秩序の維持を引き受けたに過ぎない、というのが彼の見立てです。

2. 欧米の「法的偽善」とダブルスタンダード

本書の最も読み応えのある部分は、アメリカが掲げた「武力による現状変更を認めない(不承認原則)」という外交方針に対する痛烈な批判です。

リーは、「そもそも中国には、近代的な意味での統一政府など存在していない」という事実を突きつけます。アヘンと暴力で支配される軍閥割拠地帯に対して、欧米の近代的な「国際法」や「国境不可侵の原則」を機械的に当てはめること自体が机上の空論であると一刀両断しました。さらに、欧米列強自身が世界中で武力による植民地支配を行っているにもかかわらず、日本がアジアで秩序(満洲国)を構築することだけを「国際法違反」として非難する欧米のダブルスタンダードの傲慢さを激しく糾弾しました。

3. ユーラシアの地政学と「防共の最前線」

リーは、東アジアにおける最大の脅威は日本ではなく、着々と浸透を図るソ連(コミンテルン)であると警告しました。

もし満洲国が崩壊し、あの広大な地域が力の空白になれば、ソ連が南下してアジア全体が赤化する。満洲国は単なる日本の権益ではなく、「自由主義陣営が共産主義の波を防ぐための、ユーラシア大陸における不可欠な防波堤」であると、彼は地政学的なリアリズムからアメリカ政府に必死に説きました。

なぜ彼は「一神教OS(道徳的ナラティブ)」に染まらなかったのか?

当時の欧米世論が「可哀想な中国をいじめる邪悪な日本」という道徳的なナラティブに染まる中、なぜ彼だけがその洗脳を免れ、満洲国建国のリアルを見抜くことができたのでしょうか。

最大の理由は、彼が「アジアにおける経済とインフラの現実」を知り尽くしたジャーナリストだったからです。

彼は『ファー・イースタン・レビュー』という経済・工学系の雑誌の編集長として、数十年にわたりアジアの鉄道、鉱山、貿易のリアルな数字や開発状況を追いかけてきました。

イデオロギーや宗教的道徳で世界を見る人々は、「可哀想か、邪悪か」で判断します。しかし、経済とインフラを追うリーの目はごまかせません。彼は、中国の軍閥がいかにインフラを破壊し、アヘン経済で民衆を疲弊させているかを知っていました。そして逆に、日本がいかに巨額の資本を投じて満洲の荒野に鉄道(満鉄)を敷き、産業を興し、3000万人が食えるだけの「リアルな豊かさと秩序」を創り出しているかを、データと現地視察を通じて物理的に理解していました。

「道徳的な美辞麗句」よりも、「誰が実際に人々を養い、インフラを整備し、共産主義から社会を守っているか」という「血の通ったファクト」を重んじた結果、彼はアメリカの国策に反旗を翻すに至ったのです。

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結び:無視された警告と「歴史の代償」

G.ブロンソン・リーは、自らの名誉とキャリアを懸けて、ワシントンの政治家たちに「満洲国を承認し、日本と協力してソ連の脅威に当たれ」と説得を続けました。しかし、彼の冷徹な地政学的計算とファクトは、アメリカの「道徳的熱狂」の前に敗れ去ります。

彼のアドバイスを無視したアメリカは、その後、強硬な政策で日本を追い詰め、結果として彼が予言した通りに満洲という「防波堤」を崩壊させました。そして巨大な力の空白をソ連と中国共産党が埋め、アメリカは朝鮮戦争やベトナム戦争で莫大な血とドルを流すことになります。

『満洲国建国の正当性を弁護する』は、単なる日本の行動の弁護論ではありません。

「道徳(モラル)」を掲げて「地政学(リアリズム)」を無視した外交が、いかに破滅的な結果をもたらすかを論証した、壮大な予言書です。特定の国や事象を「絶対悪」と決めつけ、法的な正義感だけで制裁を加えようとする現代の国際政治の危うさを考える上でも、私たちが今こそ読み返す価値のある極めて重厚な一冊です。

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