ブックレビュー:『お役所仕事の大東亜戦争』倉山満 著

ブックレビュー:『お役所仕事の大東亜戦争』倉山満 著
「あの戦争は、日本がアジアを解放するために戦った聖戦だった」 「いや、日本が一方的に仕掛けた侵略戦争だ」
歴史の議論になると、いつもこの極端な二項対立で行き詰まります。右を向けば熱い愛国論、左を向けば自虐史観。 しかし、お互いがイデオロギーのぶつかり合いに終始しているせいで、私たちは「なぜあの戦争に負けたのか」という、一番肝心な『まともな総括と反省』をいまだに何一つできていないのではないでしょうか。
「歴史の話は難しそうだし、自分には関係ないかな……」と、そっとページを閉じたくなるノンポリ(政治に無関心)な方も多いはず。あるいは、日本のために戦った先人を尊びたいけれど、なぜあんな無謀な負け方をしたのか、すっきりした答えが見つからずモヤモヤしている保守派の方もいるかもしれません。
そんな「感情的な歴史論」や「無関心」を一撃で吹き飛ばし、私たちが目を背けてきた不都合な真実をこれでもかと突きつけてくるのが、憲政史家・倉山満氏の著書『お役所仕事の大東亜戦争』です。
本作が導き出した結論は、あまりにも冷徹で、そしてあまりにも身近なものでした。 「日本が敗北したのは、ただの『お役所仕事』と『国民の平和ボケ』の積み重ねのせいだった」
今回は、この本がなぜ今を生きる私たち全員にとって「他人事ではない、今すぐ買うべき一冊」なのかを徹底的に深掘りします。
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1. 誰も悪くない?「誰も責任を取らないシステム」の恐怖
私たちはなんとなく、戦前の日本には「もの凄く恐ろしい独裁者や軍閥」がいて、彼らが国を狂わせたと思っていませんか? 本書を読むと、そのイメージは木っ端微塵に砕かれます。そこにいたのは、巨悪ではなく、「自分の部署の利益しか考えていない、視野の狭いエリート官僚たち」でした。
当時の大日本帝国は、陸軍、海軍、外務省、財務省(大蔵省)といった各組織がそれぞれ完全に独立しており、国全体をコントロールする「社長(強力なリーダー)」が実質的にいない構造だったのです。
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陸軍:「とりあえず目の前のソ連(ロシア)が怖いから、大陸に兵隊を置いとかなきゃ」
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海軍:「陸軍に予算を奪われたくないから、アメリカと戦争するフリして予算をむしり取ろう(本当に戦う気はない)」
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外務省:「独自のルートでカッコいい外交成果を出したい」
それぞれの省庁が、現代の会社でいう「縦割り行政」「セクショナリズム」を極めた結果、誰も全体の辻褄を合わせないまま、国運を賭けた戦争へとズルズル突き進んでいきました。
これ、現代の日本の政府や官僚組織、社会インフラの崩壊劇と完全に同じ構図だと思いませんか?戦前あった組織の病理は、いまの政府や官僚の中にも「そのまま」生き続けているのです。
2. 「軍国主義」ですらなかった?もっと真面目に戦争しろというレベルの呆れた内実
現在の視点から見ると、当時の日本は「恐ろしい軍国主義の独裁国家だった」と言われがちです。しかし、本書で暴かれる一次史料を冷静に分析していくと、まったく違う、情けない事実が浮かび上がってきます。
大日本帝国の実態は、軍国主義どころか、「おい、もっと真面目に戦争しろよ」と呆れたくなるレベルの、単なる『役所の縄張り争い』だったのです。
本物の軍国主義国家であれば、国家のすべてのリソース(人、物、金)を勝つために一点集中させ、強力なリーダーシップで組織を統制します。しかし当時の日本は、陸軍と海軍が同じ国でありながら激しく敵対し、お互いに情報を隠し合い、物資を奪い合っていました。本書で明かされる具体的なエピソードには、開いた口が塞がらないものばかりです。
呆れるエピソード①:ドイツもドン引きした「エンジン・ライセンス二重取得事件」
日本はドイツと軍事同盟を結んでいましたが、当時の最高峰の航空機用エンジン(ダイムラー・ベンツ社製「DB 601」)の製造ライセンスを購入する際、信じられないことが起きました。陸軍と海軍がそれぞれ完全に別ルートで交渉し、まったく同じエンジンのライセンス料を、ドイツに対して二重に支払って別々に取得したのです。 これには売る側のドイツも「日本人は正気か?お前ら同じ国だろう」と呆れ果てました。しかも、共通のエンジンを共同で量産すれば効率が良いはずなのに、陸軍と海軍がそれぞれ別々の国内メーカーに製造させたため、部品の互換性すらなくなりました。予算を分け合い、共同で技術開発するという発想すら、縦割りのお役所組織にはなかったのです。
呆れるエピソード②:造船所の熟練工を前線へ!海軍の足を引っ張る陸軍の「嫌がらせ徴兵」
当時の日本にとって、四方を海に囲まれて戦う以上、「船(輸送船)」を造り、守ることは国家の命綱でした。しかし、船の建造を担当する海軍の指定工場(造船所)で働く貴重な熟練工たちを、陸軍は「徴兵権」をタテに、片っ端から一等兵として赤紙で前線へ引っ張っていってしまいました。 海軍が「船が造れなくなるから勘弁してくれ」と頭を下げても、陸軍はメンツのために聞く耳を持ちません。結果として日本の輸送船は足りなくなり、前線の兵士たちは武器も食料も届かず、大量の餓死者を生み出すことになりました。
これのどこが「一丸となった軍国主義」でしょうか。やっていることは、現代の役所や大企業で見られる「他部署の足を引っ張る不毛な社内政治」そのものです。倉山氏は、「いっそのこと、強力なリーダーがすべてを統制する、本当の意味での『軍国主義』になっていた方が、まだ戦略が一貫してまともな結果(あるいはもっとマシな引き際)になっていたかもしれない」とすら指摘しています。
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3. 恐怖の「緩衝地帯ドミノ」:世界征服するまでお役所仕事を続ける気か?
国家としての長期的・大局的な「国家戦略」がない国で、官僚たちが「良かれと思って」「その場その場での最善(お役所仕事)」を積み重ねた結果、日本は恐ろしい「緩衝地帯(クッション)のドミノ倒し」に陥りました。
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「ロシアが南下してきて怖いから、隣の朝鮮半島を対ロシアの『緩衝地帯』にしよう」
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「朝鮮半島を確保したぞ。ここでお人よし発動。ここを守るためには、その奥にある満洲も『緩衝地帯』として確保しなきゃ不安だ」
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「満洲を確保したぞ。でも、今度は中国本土からの攻撃が怖いから、華北(中国北部)も『緩衝地帯』にしなきゃ……」
「ここを守るために、その先を抑える。その先を守るために、さらにその先を抑える」 全体を見通す国家戦略がないから、この思考停止のループがどこまでも止まりません。
このお役所仕事を止めなければ、「世界征服を成し遂げるまで、防衛のための拡大を続けるのですか?」という話になってしまいます。実際、日本はそうやってズルズルと戦線を拡大し、最後はアメリカという巨大な壁に激突して自滅しました。
※外国の他の列強視点だと日本は真面目に世界征服を狙っていたのかと勘違いされるような動きをしています。
4. 日露戦争後の「平和ボケ」と、扇動に弱い国民への反省
本書が秀逸なのは、軍や官僚といった「お上(おかみ)」の批判だけで終わらせず、「当時の日本国民」に対する猛烈な反省と批判を突きつけている点です。
日本の平和ボケは、戦後に始まったわけではありません。倉山氏は、「日露戦争に勝った瞬間から、日本国民の平和ボケは始まっていた」と指摘します。
日露戦争という薄氷の勝利の後、国民は「日本は神の国だから絶対に負けない」と勘違いし、地道な外交や国際情勢の分析を軽視して、ただ「威勢の良い言葉」だけを求めるようになりました。
今も昔も、日本の国民はバカげた扇動にめっぽう弱いのです。 当時もメディアはウケを狙って「弱腰外交を許すな!」と開戦を煽り、国民はそれに熱狂しました。官僚は「世論(空気)が求めているから」と言い訳しながら、目の前のドミノを倒し続けました。戦略なき「空気」に流される国民と、ブレーキを踏めない官僚。この絶望的なタッグが、あの戦争を後押ししたのです。
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5. 人口・景気・災害すら無視して自動的に増え続ける「予算」の闇
これら「お役所仕事」の極みと言えるシステムが、「人口が減ろうが、景気が悪かろうが、大災害が起きようが、国家予算と役所の組織だけは自動的に肥大化し続ける」という狂った仕組みです。
当時の陸軍も海軍も、日本国民の生活が苦しかろうが関係なく、「前年より予算が減ることは組織の敗北」だと本気で信じていました。そのため、予算を獲得するために「アメリカの脅威」や「大陸の危機」を必死で捏造し、組織の自己増殖を続けました。国民の命を二の次にしたこの予算至上主義こそが、大東亜戦争を破滅へと導いた燃料だったのです。
そしてこの「戦略なきお役所仕事」のツケは、まさにいま現在の日本で起きている問題と完全に地続きです。
近年の「米不足」の騒動や、産業の血液である「ナフサ(粗製ガソリン)不足」による危機の数々。これらはすべて、政府や官僚が長期的な安全保障の戦略を立てず、その場しのぎの「お役所仕事」で予算と組織(利権)だけを増やし続けた結果、現場の供給網が干上がって起きたものです。
戦前、ガソリンの一滴まで干上がって降伏した日本と、エネルギーや食料の自給を他国に依存したまま「空気」で予算を膨らませている現代の日本。私たちは、戦前の失敗から何一つ学んでいないことが、本書を読むと嫌というほど分かります。
まとめ:あなたの職場も、今の日本も、すべて「大日本帝国」のままだ
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「上の顔色を伺って、誰も本当のことを言わない」
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「国や国民がどうなろうと、役所の予算と組織だけは自動的に増える」
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「戦略はなく、その場その場の『お役所仕事』を最善と信じて突っ走る」
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「そして国民は、メディアの浅い扇動に騙されてそれを拍手喝采で応援する」
もし今の日本政府に、あるいはあなたの職場にこれらがあるなら、それは形を変えた「大日本帝国」そのものです。
歴史を学ぶ本当の意味は、右や左のイデオロギーで不毛な喧嘩をすることではありません。「かつて優秀だったはずの日本人が、なぜ組織のバグと平和ボケで自滅したのか」を正しく総括し、今の自分たちの社会や会社をマシにすることです。
『お役所仕事の大東亜戦争』は、単なる歴史の解説書ではありません。 いまの政府の無策に怒りを覚えている人、思考停止した世論に危機感を抱いている人、何より「日本という国を今度こそ破滅させたくない」と願うすべての人に、今すぐ読んでほしい衝撃のバイブルです。
ページをめくるたび、「これは今の日本のことだ……」と戦慄すること請け合いです。ぜひ書店で手に取ってみてください。

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